国語の結果をご紹介します。
当塾の国語受講生の平均点は、評論文 29.4 小説 38.6 古文 38.8 漢文 47 合計153.8でした。
受講者の半分以上が8割以上の得点で、最高点は26,50,50,50の176点でした。
初めての共通テストで、どのような問題が出るかわからない不安の中、まずまず健闘してくれたと思います。
新傾向の問題が複数ありましたが、特に難度が高いというわけでもありませんでしたし、問題文自体は例年と大差無く、今まで通りの勉強法で十分対策できたように思います。
古文漢文が苦手とのことで、入塾して来た生徒が今年の受験生には多かったのですが、漢文が易しかったとはいえ、ほぼ全員が8割以上取れたことは嬉しく思います。
その一方で、評論文で点を落とした生徒が多かったので、評論文の解き方について、共通テストの問題に沿って解説したいと思います。長くなりますが、お付き合いください。
前提として通読してから問題を解くのは必須です。
問2 傍線部Aの説明
まず、傍線部Aを見ると一文の途中まで線が引かれています。この場合は線部を含む一文を見て考える必要があります。
民間伝承としての妖怪とは、そうした存在だったのである。
次に考えることは、指示語が何を指しているかです。
まずは、一文前を指すことが多いので、確認します。
そうした → それは人間が~ともなっていた。
そうするとまた指示語がでてきましたので、これが指している箇所をまた考える必要があります。
それは → このような言わば~文化的装置である妖怪(指示語に当てはめたときに、違和感のない日本語に変換する)
またまた、このような、という指示語が出てくるので、これも見ます。
このような → それは通常の~カンキする。
それは → そうした日常的な~遭遇する。
そうした → 経験に裏打ちされた日常的な原因ー結果の了解
やっと指示語が無いところまで遡れたので、頭の中で要約します。
マーク問題に関しては指示語に該当箇所を当てはめて、違和感のない日本語に変換する程度で十分です。
人間が、経験に裏打ちされた日常的な因果了解では説明のつかない現象に遭遇したとき、その現象は通常の認識や予見を無効化するため、人間の心に不安と恐怖を喚起する。そのような意味論的な危機に対して、なんとか意味の体系の中に回収するために生み出された文化装置である妖怪は、人間が秩序ある意味世界の中で生きていくうえでの必要性から生み出されたものであり、それゆえに切実なリアリティをともなっていた存在である。
便宜上、遡るような見方をしましたが、通読した段階で指示語を丁寧に確認し、段落ごとに問題の有る無しに関わらずまとめる習慣をつけなければなりません。
ここまで考えてから、選択肢と照らし合わせていきます。
① 人間の理解を超えた不思議な現象 = 経験に裏打ちされた日常的な因果了解では、説明のつかない現象
意味を与え日常世界の中に導き入れる = 意味の体系の中に回収
よって①が正解です。
② フィクションの中で捉え直す → 妖怪はリアリティをともなった存在であるので☓
③ 目の前の出来事から予測される未来への不安 → 経験に裏打ちされた日常的な因果了解では、説明のつかない現象が不安を呼び起こすので☓
④ 日常的な因果関係にもとづく意味の体系のリアリティを気づかせる存在 → 妖怪自体がリアリティがある存在だったので×
⑤ 意味論的な危機を人間の心に生み出す存在 → 意味論的な危機を生み出すのは説明のつかない現象であるので☓
問3
アルケオロジー的方法とは何か。
この問題は線部までにアルケオロジーの説明がされているので、7段落以降を通読した段階でまとめておく必要があります。線部を含む一文(10段落)を見ても、文脈的にアルケオロジーを使って説明しますというだけなので、ここからは考えることはできません。
アルケオロジー = 思考や認識を可能にしている知の枠組み(エピステーメー)の変容として歴史を描き出す試みのことである。
エピステーメー = 事物のあいだになんらかの関係性を打ち立てるある一つの枠組み。
よってアルケオロジーとは、思考や認識を可能にしている事物のあいだになんらかの関係性を打ち立てる知の枠組みの変容として歴史を描き出す試みのことである。
このようにまとめることでほぼ同じことが書いてある正しい選択肢が見えてきます。正解は2。
問4
傍線部Cとはどういうことか
C線部を含む一文を見ると、こうした妖怪の「表象」化~帰結である。とあり、「こうした」という指示語があります。
一文前をを指しているのは間違いないのですが、14段落の二文目に、妖怪は~表象となっていった。とあることから、二文目からこうしたの直前までを指していると考えることができます。
こうした→
妖怪は、言葉や意味の世界から切り離され、名前や視覚的形象によって弁別される「表象」となりそれは現代で言うところの「キャラクター」であった。「キャラクター」となった妖怪は完全にリアリティを喪失し、フィクショナルな存在として人間の娯楽の題材へと化していった。妖怪は「表象」という人工物へ作り変えられたことによって、人間の手で自由自在にコントロールできるものとなったのである。
しかし、ここまででは、絞ることはできても解答するには情報が不十分です。
何故なら「」で強調された表象の意味が考慮されていないからです。
11,12段落で表象とそれに深く関係する記号の説明があるので、まとめる必要があります。
記号 → 中世において、あらゆる自然物は「記号」だった。これらの「記号」は所与のものとして存在しており、人間にできるのは、その「記号」を「読み取る」こと、そしてその結果に従って神霊への働きかけをすることだけだった。
表象 → 近世において人間が約束事のなかで作り出すことができるようになった「記号」
これは「記号」が神霊の支配を逃れて、人間の完全なコントロール下に入ったことを意味する。
これらを総合的に考えると
中世では、妖怪は記号として存在しており、人間はそこから神霊の警告を読み取りその結果に従っていたが、近世になると妖怪は表象(キャラクター)となることで、人間の完全なコントロール下に入りフィクショナルなものとして娯楽の対象になった。という内容を考えることができます。
① 人間が人間を戒めるという内容は読み取れないので☓
② ◎
③ 妖怪はリアリティを持つ存在からフィクショナルな存在へと変容したので☓
④ 自由自在に作り出されるものではなく、約束事のなかで作り出されるものなので☓
⑤ 人間の性質を戯画的にという箇所が読み取れないので☓
問5-1
新傾向の問題ですが、丁寧に見ていくと自ずと答えは出ます。
Ⅰ に入るのは2段落と3段落の内容なので、該当箇所を見ます。
段落を解釈するとき、見るべきは、接続詞です。2段落で出てくる接続詞は、「確かに」「しかし」「つまり」の3つですが、確かにとしかしはセットと考えてよく、逆接であるしかし以降が重要です。そして、「つまり」という接続詞は要約を表すので、必然的にこの段落で見るべき箇所はつまり以降となります。→ フィクションとしての妖怪という領域自体が歴史性を帯びたものなのである。
次に3段落です。ここは問②で解説しましたので、割愛しますが、民間伝承としての妖怪について述べられている段落です。よってまだこの時点では妖怪に娯楽性は無く、2段落でも娯楽の話は読み取れないので、選択肢①,②、③は排除しなければなりません。よってこの時点で正解は④です。
問5-2
近世という言葉に注目する必要があります。記号、表象のところで説明したとおり、妖怪に対する認識は中世と近世で大きく違います。
またここでは近代の妖怪観についても考えなければならないので、16段落目以降を解釈する必要があります。
近代になると人間の絶対性が薄れ、容易に妖怪をみてしまう不安定な存在、「内面」というコントロール不可能な部分を抱えた存在として認識されるようになったのだ。フィクショナルな領域に囲い込まれていた妖怪たちは、「人間」そのものの内部に棲み着くようになったのである。
こうした認識とともに生み出された「私」という近代に特有の思想であった。謎めいた「内面」を抱え込んでしまったことで、「私」は「私」にとって「不気味なもの」となり、一方で未知なる可能性を秘めた神秘的な存在となった。妖怪は、まさにこのような「私」を投影した存在としてあらわれるようになるのである。
Ⅲには近世の妖怪についてを選ぶ必要があるので、③が答えになります。
①は恐怖を感じさせるという部分が☓ ②は中世の妖怪観 ④は人を化かすという部分が☓
Ⅳは近代の妖怪がリアリティを持つことになった理由が入ることになるので、上記から④が答えになります。 ①は④に対極の内容なので☓ ②は「私」観の説明が文脈にそぐわないので☓ ③は近世の人間観なので☓
問5-3
本文とは別の小説を読んで本文の内容に合う選択肢を考える新傾向の問題でした。
近代の妖怪観に関する小説なので、上記で説明したように、近代の妖怪とは、不安定でコントロール不可能な内面を抱えた不気味で神秘的な「私」を投影したものであるということを踏まえて考えるべきです。
①は別の僕の行動によって~という文が、本文の当惑したことを覚えていると合わないので☓
②は本文の内容と近代の「私」の説明にも合致するので◎
③は会いたいと思っていたは本文に書かれていないし、①と同じで当惑した事実と思いを叶えてくれたというところも合わないので☓
④は分身にコントロールされるという部分が本文に記載なし☓
⑤他人に噂されることに困惑しているのではないので☓
以上ざっくりとでしたが、解説でした。参考になれば幸いです。
授業では、少人数制ですので、このような解説を一人一人が理解できるまでしております。
古文、漢文では、文法がある程度理解できるところまで進んだ後は、問題ごとに全訳をしてもらい、細かい文法、現代語訳を説明しています。
国語はセンスであって勉強しても仕方がないというようなことを言う人もいますが、正しい考え方を身につけることで、安定して高得点が取れる教科ですので、得点源にしてもらえたらと思います。