発音記号とカタカナ表記

私の手元にある各中学校の教科書には、いずれも巻末に新出単語が出ています。ですから、教科書を予習する際、掲載されている単語の意味については巻末を調べていけばわかります。しかしながら、中1の教科書でさえ、読み方はすべて発音記号で示されていますので、予習に際して生徒がその単語の読み方を知るには、発音記号の知識が必要となります。しかし、すべての発音記号が読める中学生は、今のところ私の教室にはいません。したがって、新出単語を教科書の巻末で調べられるのは「意味」だけ、ということになります。一方、辞書はどうかと言えば、これもほとんどの中学生が使用している辞書は、電子辞書も含めて、読み方は発音記号で表示されています。ここからも、予習に際して「意味はわかるが読めない」単語がいくつもある生徒は多いものと思われます。教室には、電子辞書の音声を聞いて読み方を確認している生徒もいますが、繰り返し聞いているにもかかわらず、読ませてみるとやはり読めないことが多いものです。1,2音節の単語であればまだしも、3音節以上の長い単語になると、発音記号の知識なしに自力で読み方を習得することはむずかしくなります。高校生がよく手にしている「ターゲット1900」という単語集にしても、読み方はすべて発音記号で表示されていますが、発音記号の読めない高校生は、そこに掲載されている、たとえば “extraordinary” [ɪkstrˈɔːrdənəri] をどうやって暗記しているのでしょうか?おそらく “baseball” を「バセバ11」というほど極端ではないにしても、自分の覚えやすい読み方をしている生徒も多いことと思います。しかし自己流の読み方であっても、とりあえず読まないと暗記できませんから、一概に責めるわけにもいきません。(発音記号をカタカナに変換してくれる便利なツールもありますが、それを使ってまで正しく読もうとする生徒はおそらく皆無に近いでしょう。)

このように単語の読みの手がかりとなる発音記号を、中学校では授業できちんと指導してくれているかと言えば、私自身の遠い記憶を辿ってもその覚えがありませんし、知識として身についている高校生に聞いても、「いつの間にか覚えた」という、あいまいな答えしか返ってきません。しかし、「いつの間にか」読めるようになる生徒ばかりではありませんので、できるだけ早いうちに、きちんとした指導が必要と思います。発音記号そのものは数も限られており、単語の読み方はその記号の組み合わせで表記されているというだけで、たいして難しいものではありません。ですから、どこかのタイミングで、授業の一部を基本的な発音記号のレクチャーに充て、後は教科書欄外の新出語彙でそのつど確認していくようにすれば、慣れていくのにそれほど時間は要しないはずです。発音記号の読み方を身につけることが、その後の英語学習、特に語彙学習の効率と精度を高め、しかも習熟にそれほど時間も要しないことを考えれば、中学校でそのために必要十分な時間を設けて指導を行うべきと思います。

ちなみに私の教室では、来月初旬には中学生の一部の生徒から順に指導をスタートできる準備を進めていますので、夏明けには、初見の単語を、アクセントの位置も含めて発音記号から読める生徒が増えているという成果に期待したいところです。なお、現段階では、宿題に音読を課す場合、教室で事前に必ず読ませて、訂正したり教えたりした上で自宅で練習させるようにしています。

さて、次にカタカナ表記についてですが、私の教室では、高校生であっても、満足に読めない生徒には、読めなかった単語にカタカナで読み方を書くようにさせています。私が細かな読み方にもこだわるのは、上の「バセバ11」のように、自己流のでたらめな読み方でも、スペルと意味を覚えればそれでよいという、低い意識で学習を続けても、英文をスラスラ読めるようにならない、その結果、英語力の向上そのものが望めないからです。そしてカタカナであっても読みの手がかりとなれば、自己流のいい加減な読み方を重ねていくより、よほど「スラスラ読み」に近づいていきます。

また、英語の学習が初めての小学生・保護者には、カタカナ表記つきの英和辞典を勧めています。今の辞書に見られるカタカナ表記は、昔と違って、できるだけ原音に忠実にという意図がはっきりしていますので、生徒がそれを読むのを聞いても全く違和感がありません。例えばある辞書では、”biology” を調べると、発音記号 [bɑɪάlədʒi] と カタカナ表記 [バイロヂィ] が併記されています。末尾の”ʒi” など、 [ジー] ではなく、[ヂィ] と表現している精密さです。このカタカナ表記のどこに不自然さがあるでしょうか?それどころか、この通りに覚えられたら大したものです。もちろん、先々では発音記号から「バイロヂィ」と読めるようにしたいですが、読みの導入としては十分すぎるほどの正確な表記だと思います。

以上、教室での実例を交えながら、発音記号とカタカナ表記の有用性について述べてきましたが、これらを否定する意見は根強く存在します。ただ、それらカタカナや発音記号を否定する意見の中には、上の例のような表記の仕方を知りもせず、イメージだけで「カタカナはダメ」と決めつけたり、「ネイティヴ(スピーカー)」や「実用的」という言葉を持ち出して、現実味のない理想を語ったりしているようなものも多く含まれています。しかしカタカナ表記も発音記号も、生徒の自力読みを手助けする(=自習への道筋をつける)ために大変便利なツールであることは事実です。特に発音記号は、どの生徒にも極力早期に、完璧に使えるように指導していきたいと考えています。