センスを身につける

教室では、どの生徒にもひたすら読ませて書かせています。また、学習中、私の前へ来て音読させる時間は必ず設けていますが、これは主として語彙や文法、正しい英文の定着のために行っているものです。そのため、音読させる場合には、複数のsの抜け、the の読み間違い、アクセントの位置、区切り方の間違いなども間髪を入れず指摘して読み直させますので、特に小中学生などは相当緊張感を持って読んでいます。自席で順番を待っている生徒まで緊張して真剣に練習しているほどです。ここまで厳しくしてでも、正しく頭に焼き付けていかないと、先々同じ間違いばかり繰り返すことになるからです。と同時に、生徒の中に「1語1語をいい加減に扱わない」態度が育つことを期待していることも、この指導の狙いです。なぜなら、読む過程で1語1語を大事に扱う(きちんと注意を向ける)態度を養うことは、英文に対する集中度を上げることになり、どのような長文であろうと、文意を高い精度で読み取る訓練になると考えるからです。逆に、いくら多読して、解法を繰り返しても、この態度が育ってこなければ、読解問題を得点源にすることが難しくなります。内容一致問題が、そのよい例です。1語の解釈を誤っただけで落としてしまった経験をした生徒は多いことでしょう。

そして、この「1語1語に最大限の注意を払い、正確に読む」習慣は、読解精度の向上にとどまらず、英文そのものに対するセンスを身につけることにつながると考えています。「正しく読んで正しく書く」ことを繰り返しているうちに、「正しくない表現」「正しくない語法」に対する「違和感」が生じるようになります。たとえば冠詞が必要なところに冠詞がついていなかったり、不可算名詞にsがついていたり、といった細かい点にまで目が行くようになります。つまり、ここで言う「センス」とは、この「違和感」、「何かおかしいな?」という感覚 feel uneasy with ~ のことです。

以前にも書きました「正誤問題」の解法について、普段の学習では、1問1問きちんと検証させますが、どれだけ文法・語法の知識を蓄え、問題パターンに慣れたつもりでも、それですべての問題が解けるわけではありません。センター試験レベルならまだしも、どれが正解かわからないどころか、英文全体の意味すら捉えようがない難問が、特に一流私立大学の入試では頻繁に登場します。こういう問題に出くわした時、どう対処するかと言えば、いわゆる「勘」で答えなければ仕方がないのですが、その「勘」の精度が問題です。ためしに、そのような超難問を20題30題とやらせてみると、先ほどの「センス=違和感」を身につけている生徒と、まだそれほどでもない生徒では、明らかに正答率に差が出てくるものです。一見似ているようで、二者の間には目に見えない大きな隔たりがあります。前者の解答が上述の「違和感」を根拠としているのに対し、後者のそれは「当てずっぽう」に近いもの、つまり精度が低く再現性に乏しいわけです。高校の先生の中にも、「迷ったときに違和感のある選択肢は間違い」と教えている方もいらっしゃるようですが、それはその通りだと思います。ただし、難解な英文に違和感が持てるかどうかは、相当レベルの高い話で、冒頭で書きましたような学習を積み重ねる過程で徐々に備わっていくものです。つまり背景に訓練があるのです。

センスとは、「いいものに数多く触れ、五感を総動員して、吟味を繰り返す」中で培われるものと思います。英語学習に置き換えますと、「正しい英文に数多く触れ、読んで書いて聞いて口に出すことの繰り返し」の中で培うべきものです。一般的には「センス」と聞けば、才能のように「元々備わっているもの」とイメージする向きもありますが、私から言わせれば、「センスがない」は「能力が低い」の同義語ではなく、「訓練不足」の同義語です。

※蛇足ながら、アメリカのある大学が学生に対して行った、講義内容の定着率に関する調査によれば、講義を受けて何もしなければ、聞いた内容の5%しか定着しなかったそうです。授業を受けただけでは力がつかないことの、一つの証左であると言えます。