小学生の語彙不足

英語から少し離れますが、小学校低学年のうちは、教科書で扱われる語彙も身近な言葉、すなわち具体的な事物や動作の語彙が中心ですので、学校では語彙不足も学力差も目に見えにくいものです。が、中高学年になると、目に見えない言葉、つまり「意志」や「感情」などの抽象名詞や、普段あまり使うことのない動詞その他の品詞についても、その習熟度合が、国語だけでなく、算数・理科・社会など、主要と呼ばれる教科のほとんどの成績に大きく影響します。

 

知悉[ちしつ]語彙(知っていて使うことができる言葉)の数、日常生活での使用頻度が少ない抽象語彙の習熟度はその子の理解力(=国語力=頭のよさ)そのものです。小学校中高学年になると、それが各教科の成績として顕在化するわけです。たとえば、算数の文章題や図形の問題では思考力を問われますが、それができないのは多くの場合、思考力以前の理解力不足に起因しています。問題の意図や意味が読み取れないのです。ですから、そのような子どもに文章題の練習ばかりさせても、数字や表現を少し変えられただけで、たちまちお手上げとなるのはその好例です。高い思考力は、高い理解力の上に成り立つもので、その逆はありません。したがって、「思考力教育」などというのは、ある一定レベル以上の理解力を有する生徒に行われて初めて効果を発揮するのでしょう。「日本語のレベルは理解力のレベル、理解力は思考力の土台」と言えます。『ちょっと難しい2500の日常語』(アーバン出版局)という本の「はじめに」には、「語彙不足を思考力のブレーキとさせない」と書いてありますが、まさにその通りです。ちなみに、知悉語彙数と学力の相関データでは、小6の最上位生徒37,000語に対し最下位8,000語と、実に4倍以上の開きがあります。

さて、前置きが長くなりましたが、なぜこのようなことを書くのかと言いますと、上の記述は、そっくりそのまま英語学習にも当てはまるからです。教室での指導においても、この日本語の理解度、「抽象語彙」の不足は、特に低学年の生徒にとって、学習が進めば進むほど大きな壁となります。ひとつ例を挙げれば、英文の中でenvironment を訳しても、「環境」という言葉の理解が伴わないと、そこから学習が進まなくなることも、往々にして起こります。小学校も高学年になると、3Rや温暖化など、環境問題について考えたり議論する場も増えているようですので、明確に言葉で定義できなくても、なんとなくイメージできるはずです。ですから英文の中に、environment と出てきて、それが「環境」のことだとわかれば、それほど抵抗はないでしょう。ところが、「環境」の読み方も知らない低学年生には、読み方から教えなければなりません。さらに理解をより難しくさせてしまうのは、その言葉から具体的な形や動作をイメージできないことです。英和辞典や単語集で調べても同じことです。説明文の説明をしなければいけない状況に陥ってしまいます。そして、そういうことが度重なると、学習が行き詰ってしまい、やがては英語学習そのものに嫌気がさしてしまう、ということもありえます。また教える側も身がもちません。学習内容が高度になればなるほど、生徒(子ども)も指導する側(親)も、英語ではなく国語に苦しめられるわけです。もちろん、この例のように、 environment を学習しているような小学生は、優秀な生徒であることは間違いないのですが、日本語の語彙不足は先々で英語学習に支障をきたす、という主旨をご理解いただければ、と思います。(これは小学生に限ったことではありませんが・・)

上記のケースは少しレベルの高い話ですが、そこまでいかなくとも、同様なことは中1レベルの語彙や文法学習においてさえ、特に低学年生には起こりがちです。以前、「日本人にとっての英語の勉強とは、自分の日本語のレベルに英語のレベルを近づけていくこと」と書きましたが、肝心の日本語のレベルそのものが低ければ、必然的にそれに見合った英語力しか身につきません。ただ、社会人ならともかく、まだ語彙の習得途上にある小学生には厳しすぎる表現ですので、「英語の学習レベルに見合う日本語の力がまだ育っていないから」と言い換える方が適切かもしれません。ですから、幼児・低学年のうちから英語学習を開始する場合、「英語を好きにさせる」「慣れさせる」という入り口のレベルで満足するなら別ですが、もっと先の「力」をつけさせたいのであれば、英語学習に先行して、あるいは並行して、日本語の語彙習得に努めるべきでしょう。私の教室の低学年生にも、英語指導の中で、という制約はありますが、日本語の語彙力を高める方法を日々試みている最中です。 そしてこれも何度か書いてきたことですが、日常会話を越える語彙は、生活体験からはほとんど習得できませんので、意識的な活動(学習)が不可欠となります。さらには、文章の中で、前後の因果関係を確認しながら、それこそ「ちょっと難しい言葉」に慣れていくことが必要と思います。要するに読書です。ご家庭でも、最初はスラスラ読めるレベルから、その後は徐々に先の学年の本を読ませる(音読させる)ことをお勧めします。お兄ちゃんやお姉ちゃんがいるご家庭ならば、使わなくなった国語や社会の教科書などもよいと思います。そうやって少しずつでも日本語の語彙を増やし、理解の幅を広げていけば、それは高い論理的思考力の基礎となり、先々の英語学習にも必ず活きてきます。